怒りの書

 必要があって、犬塚稔『映画は陽炎の如く』(草思社、2002)を拾い読みした。犬塚(1901-2007)は見ての通り106歳まで生きた脚本家、映画監督だが、これはその自伝とも言うべき、しかし相当の怒りに満ちた書である。犬塚は、「座頭市」が自分の創作であると訴えているのだが、元は子母澤寛であり、犬塚はそれをふくらませて独自のキャラクターにしたという。典型的な著作権問題である。
 大詰めは1990年以後、勝新太郎相手に起こした訴訟で、勝は犬塚に映画脚本を頼み、1100万円を支払うと言いながら映画は製作できず(もちろん勝新の莫大な借金もからみ)、脚本料も払われないというので犬塚が勝を訴えたもので、一審で犬塚の全面敗訴、しかしこれは弁護士を立てず本人訴訟で、90歳過ぎてそんなことをするのだからすごい。二審は弁護士を立てたため和解。ただし勝が死んだため全額は支払われなかった。
 あまりに怒りが凄まじいので、どうかなと首をかしげる記述もある。宇野信夫が書いた座頭市ものを映画化した後、それがテレビドラマ化されたのだが、犬塚が独自に入れた挿話四つが無断で使われたと言い、四人の脚本家を罵倒している。その一人は星川清司らしく、「直木賞作家も盗作をする」という章題がついている。星川の名は出していないのだが、「平成元年下期(ママ)に百二回目の直木賞を獲得した」とあるんだから誰でも分かってしまう。しかし、映画脚本をテレビ化したなら、どれが犬塚のオリジナルか、普通は分からないと思うのだが…。
 私は勝新太郎って嫌いだし、座頭市にも興味がないから、割とそこはどうでもいいのだが。

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出版ニュース』の「今年の執筆予定」を見ていたら、諸橋泰樹とかいう奴が、母親が死んだと書いていて、「83歳までしか生きさせられなかった」とあって、一瞬怒りを覚えた。息子にとっては83でも不足とかいうことなんだろうが、世の中にはもっともっと若くして死ぬ人もいて、そういう人の家族とかがこういう文章を見て不快になるとかそういうことは考えないのか。