トントンのずんずん調査

 あまり気づかずにいたのだが、『細雪』舞台版は、1966年以来、東宝系の劇場でロングランしている。菊田一夫作で、菊田一夫というのは本当は偉い人なのだ、ってまあ舞台関係者には当たり前だが。
 『細雪』の主役は蒔岡四姉妹で、サイデンスティッカーによる英訳題は『マキオカ・シスターズ』…。いやちょっと変な連想を…。これは昭和12年から16年まで、谷崎の妻松子の四姉妹のうち、三人目の信子がもう三十を過ぎて見合いを繰り返し、ようやく成立して嫁入るまでを描いたものだ。私は日本近代文学の最高峰だと思っているが、谷崎好きの中でも、これは認めないという人がいる。河野多恵子がそうである。
 ところが、初めて読んで激しく感動したのは大学生の頃で、私はてっきり虚構だと思っていたら、実はほとんど実際にあったことだと知って、事実の強さというのを感じたものである。なお三女・雪子は絶世の美女の如くだが、現物は少しも美しくはない。谷崎が大きく事実と変えたのはむろん自分自身で、次女・幸子の夫貞之助は入り婿で、かつ年齢も谷崎自身より十いくつ若い。ただ頭隠して尻隠さずで、妙に文学的教養がある。
 さて、この四姉妹をどの女優が演じるかというのが興味深い。かつてテレビドラマ版では、松子の連れ子で谷崎養女の恵美子さんが雪子を演じたが、今は観ることができない。
 現実の四姉妹の、当時の年齢は以下の通り。
 朝子(作中の鶴子)38-42
 松子(幸子)   34-38
 重子(雪子)   31-35
 信子(妙子)   27-31 

 これに対して、舞台では、
1966年(芸術座)浦島千歌子(42)、岡田茉莉子(33)、司葉子(32)、団令子(31)
1970年(御園座)淀かほる(40)、乙羽信子(46)、光本幸子(27)、浜木綿子(35)
1976年(大分文化会館岡田茉莉子(43)、東恵美子(52)、藤村志保(37)、五十嵐淳子(24)
1984年(東京宝塚劇場淡島千景(60)、新珠三千代(54)、多岐川裕美(33)、桜田淳子(26)
1985-90年(同)   淡島千景新珠三千代遥くらら(30)、桜田淳子 
1993-94年(大阪近鉄劇場、帝劇)淡島千景(69)、新珠三千代(63)、多岐川裕美(42)、熊谷真実(33)
1995-98年(大阪新歌舞伎座東宝劇場)淡島千景(71)、八千草薫(64)、多岐川裕美(44)、熊谷真実(35)
1998年(劇場飛天)淡島千景(74)、池内淳子(65)、多岐川裕美(44)、熊谷真実 
2000年(帝劇)佐久間良子(61)、古手川祐子(41)、沢口靖子(35)、純名里沙(29) 
2001-03年(帝劇)佐久間良子山本陽子(59)、沢口靖子(36)、南野陽子(34)
2003年(中日劇場佐久間良子(64)、山本陽子(61)南野陽子(36)遠野凪子(22) 
2004年(帝劇)佐久間良子山本陽子紺野美沙子(44)、南野陽子(37)
2005年(明治座大空真弓(65)、山本陽子(63)、紺野美沙子南野陽子 
2008年(博多座大空眞弓(68)、山本陽子(66)、紺野美沙子(48)、南野陽子(41)
   (帝劇)高橋恵子(53)、賀来千香子(47)、檀れい(37)、中越典子(29)
2010年(明治座高橋恵子賀来千香子紺野美沙子(50)、藤谷美紀(37)
2011年(帝劇)高橋恵子(56)、賀来千香子(50)、水野真紀(41)、中越典子(32) 

 何も言いますまい。「配役宝典」を参考に作成したので、全然「ずんずん調査」じゃないのだが、76年の岡田茉莉子東恵美子は逆じゃないかという気がするが、これでいいのである。私としては竹下景子の幸子を見てみたい気がする。