新人学者月評

高見順日記
1962年6月8日、
「車中、大佛次郎『帰郷』を読む。やっぱりどうも通俗小説(―高級な通俗小説)だなと思う。残念な気がする」

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文學界』に「新人小説月評」という欄がある。二ページ、新進の批評家が、一頁ずつ受け持ち、半年の任期で、前月号の五大文藝雑誌の「新人」の小説を評する。任期の最後には、一人二頁になって総括をする。
 問題はその「新人」の定義で、基本的に「芥川賞をとっていない人」である。これは凄い基準ともいえて、綿矢りさ青山七恵は早々に「新人」ではなくなる。朝吹真理子ももう新人ではない。しかし芥川賞をとらない限り、三島賞をとろうが野間文芸新人賞をとろうが「新人」である。鹿島田真希山崎ナオコーラも川崎徹も新人である。果して黒川創はまだ新人なのだろうか。星野智幸は、三島賞をとったあとも延々と新人扱いを受け、自ら新人でなくなったと宣言してここから外れた。私は、もしかしたら橋本治片岡義男も新人になるのではないかと思ったが、さすがにそれはなかった。何しろ、75くらいの古屋健三だって新人なのだ。まあ確かに、まだ小説の単行本はないけれど。
 確かこの連載が始まったのは94年くらいかと思うが、まあいずれにせよ80年代にはなかった。あったら、村上春樹が延々と新人扱いされることになっただろう。阿部和重が十年のキャリアののちに芥川賞をとったのも、この欄があったせいではないかとすら思える(実際そうかもしれない)。いつまでも阿部を新人扱いするのがいかにもまずかったということである。三浦俊彦赤坂真理が文藝雑誌に書いたら、やはり新人なのだろうか。
 もっとも、これにはさらにすごいことがあって、新進の批評家が担当する、というが、陣野俊史は新進なのか? という問題もある。
 学会誌でこれをやったらどうかなあ。新人学者月評、雑誌によっては年評で、博士号をとってない人は新人とみなす、ってやったら、博士号をとっていない教授の博士号取得の促進になるかもしれない。まあそれで過労死する人が出るかもしれないが…。