文筆家格差

 丸谷才一先生のある文章は、掲載誌は分かるのだが単行本に入っているのかどうか分からないので、『男ごころ』というのにあるかなと思って図書館で借りたら、なかった。しかし、借りてきた。
 それでぱらぱら見ていた。するとこんな文章があった。

 わたしたち文筆業者は、普通、図書館に足を運ばない。もちろん例外はあるだらうが、たいていの人は編集者に頼んでゼロックスを取つてもらひ、それを読むのである。これは編集者の好意に甘えてゐるわけだが、資料探しを名目にして怠けようといふ魂胆をあつさりと見抜かれ、未然に防止されてゐる気配もかなりある。

 私は下手をすると毎日図書館に行っている。第一に、どの本に書いてあるか分からないこともあるし、編集者に頼むというのはよほどのことである。つまり、偉い文筆業者に限られるので、そっちが例外である。後半ははじめ意味が分からなかったのだが、どうやら売れっ子作家の話らしい。売れない文筆業者は、怠けるということはない。また怠けても編集者は困らず、文筆家が困るだけである。しめきりに追われる、というのはもう立派な売れっ子の証拠であって、売れない文筆家は書いて持ち込むから締切などない。

                                                              • -

著書訂正
中島敦殺人事件』p234に、
「涼子は石塚友二の『松風』を読んでみた。中央公論社の「日本の文学」の『名作集(三)に入っていたのだが、』」→「集英社の『日本文学全集』の「名作集(三)」」