謎の島為男

 こないだ参照した『宮本百合子』の著者の島為男という人が、生年は国会図書館で分かったのだが、経歴や没年が分からない。著者紹介欄にも著書が並んでいるだけ。1990年という、おそらく島がもう死んだあとに復刊されたのであろう日本図書センターの『夏目さんの人及思想』には井上百合子(1925-)が解説を書いているのだが、どうやら島の経歴など一切調べなかったらしく書いていない。ただこの本(1927)が、『草枕』の那美のモデルを前田案山子の娘と推定した最初の本であるということが分かっただけであった。
 そこで、1977年に出た『教壇・七十余年の春秋』というのを古書店で入手した。自伝ではあり、大分師範を出ただけであまり学歴のある人でないのは分かったが、これは奇書である。何しろ本文からあとがきまで一貫して自分のことを「彼」と三人称で書いているし、自分のことと社会状況がごちゃまぜになっていて、自分語りに没入して客観描写が出来ないから、ところどころ事実が把握できない。
 それでまた私が入手したのが、著者謹呈本で、油井という教え子に贈ったものらしく、著者の書き込みがあるが、86歳の老人だからなかなか変な字である。 
(付記)オタどんの調査により1988年没と判明した。息子三人はみな立派な学者になっていた。
その一人、島澄の履歴があった。
http://e-lib.lib.musashi.ac.jp/2005/kiyou/sakuin/006s.html

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 小久保実が6月に死去していた。そのことを知った『文藝家協会ニュース』7月に佐伯順子さんがエッセイを載せていて(これは確か原稿料が出ない)、嫌いなものとして、ディズニーランド、カラオケ、オヤジ式飲み会をあげ、「読者の反感をかっているかもしれない」と書いているのが、意外だった。以前は、思ってもそういうことを言わない人だったからだ。それに花博へ行ったとか言っていたが、それはいいのか。まあ、五十過ぎて、今さらオヤジ老教授に遠慮しなくとも良くなったということか、それはいいことだ。
 私はディズニーランドは行ったことがない。カラオケはホントは好きなのだが、このところ行く機会がない。飲み会も酒を飲まないからほとんど行かない。
 もっともその後は近ごろいつもやるドイツの思い出&ドイツ礼賛で、「日本ではなぜ子供連れでもなく大人がディズニーランドへ行くの?」と言われるドイツは快適だった、と言う。さらに、日本は電気を使いすぎだと、ドイツの「エコ生活」ぶりを礼賛して、脱原発を褒めるに至ってはちょっと馬脚で、それはフランスから電力を輸入しているからできるんでね…。
 (小谷野敦