書かなかった話

 『久米正雄伝』に、入れようかどうしようか迷って結局入れなかった資料がある。七尾京子「偽久米正雄と結婚した話」(『婦人公論』1930年12月)である。著者は、どうも新潟辺で藝者をしていて、関東大震災のころ、久米の境遇に同情していたら、久米が講演に来て、清田旅館へ尋ねて行ったら、久米に落籍されて結婚した。だがほどなく、久米結婚のニュースが出て、それが偽者だとわかったというのだ。
 入れなかったのは、やっぱり嘘くさいからである。