『婦系図』は名作か?

 こないだ日文研から二冊の論文集を送ってきた。うち一冊、以文社が制作した「非売品」だが、どうも製本がおかしい。僅かに歪んでいる。商業出版だったら製本会社へ突っ返されてもおかしくないし、まず取次へ出せない代物である。製本はシナノ印刷である。

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 泉鏡花の『婦系図』と『日本橋』は、新派のレパートリーである。しかるに私はこの二作がそれほどの名作かどうか分からないのである。『婦系図』のほうは、原作と舞台とではだいぶ違っている。原作は、湯島境内の場がない。それに主税の元スリというところが本筋で、ブルジョワ社会の偽善を暴くという話である。それが、全体としてうまい長編にはなっていない。だからまあ、続けて読まれはしない。
 舞台のほうは、最後が明らかに『椿姫』の真似である。『椿姫』自体が、下らない小説である。