私の行きつけの図書館に、むやみと「ありがとうございます」を連発する図書館員がいる。おそらくこの四月から入った女性で、アニメ声で、ワンアクションごとに言う。図書館というのは、税金でまかなわれた公共サービスだから、利用する権利があるのは当然だが、そうお礼を言われるほどのことではない。あまり連発されると卑屈にすら見えて不快である。さらに困るのは、態度が横柄なら、おいお前なんだその態度は、と言えるけれど、卑屈なのはそういうことを言いづらいから、なお困る。
 世間にはこういう、下手に出ていさえすればいいだろうと思っている人々というのがいて、いや、謝るのはもういいから、事後処理のほうをちゃんとしてくれ、と言いたくなる奴もいる。これの派生形態として、「自分はバカだから」といった言をたびたび発する者がいるが、これも厭味である。「自分はバカだから」という言葉は、決して相手を納得させたりするものではなく、ただ軽く不快にさせるものである。それは、「バカだから」「何か手落ちがあっても許してくれ」、あるいは学生なら「出来が悪くても見逃してくれ」といった意味にしかとれないからである。
 さらにその派生形態として、せっせと出席しさえすればいいと思っている大学生など、というのがいて、そういう子はしばしば、試験をさせると出来が悪くて、落としたりすると、あんなに出席したのにとねじ込んできたり、教員が出席をとらないと不満を述べたりするのである。

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再来年の大河ドラマが「平清盛」になるという。「新・平家物語」は当然、平家の西海での滅亡まで描かれたが、清盛はそれ以前に死んでしまうから、あまり長々と清盛没後のことをやるわけには行くまい。緒方直人の「信長」の時みたいに、信長一人で一年もたせるのが難しいということにならなければ良いのだが…。
 (小谷野敦