眠れる森

野沢尚向田邦子賞受賞作『眠れる森』を観終わったところである。ミステリー作品で今でも人気があるようだが、最初のほうがちょっともたつく。さてここに「福島学院大学」というのが出てくるが、この大学は今では実在するものの、放映当時は架空の大学であった。しかし実に妙で、ドラマ内での設定でも、福島県にある小さな私大なのだが、その卒業生が東京のエリートサラリーマンだなんて変だし、何より、観た人の多くがおかしいと思ったであろう、婚約者の出身大学を知らないという驚くべき展開。
 日本のフィクションで大学の扱いがおかしくなったのは、恐らく1970年代半ば、総中流意識が広まってからであろう。特にミステリーではその傾向が強く、『マークスの山』の初版などまさにそうで、刑事が知らない超一流大学などという珍妙なものが出現している。高村薫は文庫版でここは徹底的に書き直してその変な大学は消えている。
 しかし『眠れる森』の場合、何も婚約者の出身大学を知らないなどという設定にする必要はなかったし、東北大学ということにすれば(もちろん名前は『白い巨塔』式に「奥州大学」とかに変えて)良かったわけだし、それならでかい大学なのだからあれでもおかしくない。
 大林宣彦の『ふたり』でも、尾美としのりの大学生がエリートということになっているが、広島工科大学の学生だから、なんでそれでエリートだと。これは赤川次郎の原作では舞台が東京なので、東大工学部か東工大の学生だったはずだ。尾道にしたからそんなことになったわけ。
 もっともこのドラマ、奇抜な展開なのはいいけど、ありえるのか、という感じではある。 
 そういえば、何かしつこく、眠れる美女は何で会ったばかりの王子さまのプロポーズを受け入れるのかって話題がしつこく出てくるが、いかにも女を口説く時に使いそうな話柄だなあと思った。

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読書人か何かで千葉一幹柘植光彦村上春樹本を書評していて、千葉さんにしては面白い書評だった。これは研究者じゃなくて村上春樹オタクによる本だというのだが、しかし冒頭に、研究にも愛は必要だが冷徹な目も必要だとかいうのはやっぱり千葉さん的な非学問で、ミミズの研究する人にミミズへの愛が必要かと。
 あと阿部公彦丸谷才一の本を書評していて、丸谷が漱石の『文学論』をつまらないと書いているのに感心しているのだが、あれはつまらないでしょう。まあつまらなくないと言う人もいるのだからいいのだが、別に『文学論』をつまらないと言うこと自体にそう感心することもなかろうと思った。