山室静年譜の謎

 『山室静自選著作集』についている荒井武美編の長大な年譜に、1962年の1月から12月まで、「朝日新聞」で文芸時評を担当、と書いてある。それで『翻訳家列伝』でもこれを踏襲しているのだが、山室がやっていないことが分かった。
 この荒井という人は、新聞記事によると現在存命なら78歳。佐久文化会議の事務局長をしていた。2006年に一草舎出版から山室に関する著書を出しているが、一草舎は解散してしまった。もしかすると別の新聞で文藝時評をしていたのかもしれないが、果して分かるかどうか…。

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右翼雑誌『Will』6月号で、平川上皇の『日本語は滅びるのか』の書評を堤堯とかいう人が書いているが、またしても、サイデンスティッカーの誤訳のせいで、『源氏』はレイプの文学だなどと言われるようになったという説が紹介されていて困ったものである。
 確かにサイデンが、空蝉の返しの歌を「ナイトメア」と訳したのは誤訳であろうが、日本でも今井源衛が「女の書く物語はレイプから始まる」という論文を書いていて、まさか今井がサイデンの英訳でそう思ったなんてはずはないのだから、サイデンのせいではない。ちゃんと『源氏』を読んだって、柏木とか薫大将とか、強姦ではないかと思われるふしはある。今井に対しては三田村さんなどが反論してちゃんと議論になっているのに、どうしてもサイデンのせいにしたいらしい。それだって平川上皇は知らずに書いているのではなくて私の『もてない男』に今井論文への言及があるのだから知っているのだ。ひたすらサイデンを攻撃するのは、サイデンが天皇制に批判的だったからである。実に困った祐弘ちゃんである。