筒井康隆『ロートレック荘事件』など

 『ロートレック荘事件』のアマゾンレビューで、今まで読んだ中でいちばん面白かった推理小説、と書いたら、kokada jnetさんから、あれは叙述トリックで先行作が、と言われた。確かに私も、あまり絶賛されることがないし、推理もの好きからしたら、どうってことはないのかな、と思っていたので、どういう先行作が、と訊いたら、横溝正史『夜歩く』、高木彬光『能面殺人事件』などを挙げられたが、いやそうじゃなくて、筒井より凄いのはあるのか、と訊いたら、昨年死んだ中町信のを挙げられてこれは読んでいないから今度読む。しかし海外にはないのであろうか。『アクロイド殺人事件』は、何度も言うがこれを読んで怒りのあまり十年間推理ものを読まなくなった作であって論外である。
 ツイッターでは「自分」なんて書き間違えているが、日本最初の叙述トリックは谷崎先生の「私」という短編である。もっとも、「ルパンの逮捕」はこれより前である。
 で、「叙述トリック」と書くことが既にネタバレだ、などと言う奴がいるのだが、だいたい叙述トリックものは、読みはじめればすぐ分かるし、分かってしまって面白くないとしたらそれは作品が悪いのであり、そこまで過保護になる必要はない。そんなことを言ったら、『シックスセンス』の冒頭で「結末は友人に話さないで下さい」とあるのだって、ネタバレだ、これで注意深く観たら分かってしまう、ということになろう。特に『ロートレック荘事件』は、はなから叙述に仕掛けがあるのが分かるが、それでもひっかかるから凄い。
 『チ・ン・ピ・ラ』という映画は、映画評論家が、二度だまされた、と書いていたのを読んでから観たので、二度目は騙されなかったが、あれは虚心に観ても、騙されないだろう。
 ところでその際、小泉喜美子の『弁護側の証人』も挙げられた。実はこれは1980年に『冬の祝婚歌』の題でNHKで連続ドラマ化されていて、これは20回、完璧に観て面白かった記憶がある。しかし原作のほうは、集英社文庫のを買っておいてさっき読んだが、別にそれほど…。それより、青木雨彦が解説で、某文藝評論家がひっかかったまま小泉と対談して、対談が終ってもひっかかったままだった、と書いていたのが気になった。まさか読まずに対談したわけじゃあるまいし、もしかしてこの作はもう一つ裏返るものか?
 おもえらく、筒井は推理作家ではないから、差別されているのと、障害者がどうたら、という、文庫版解説に書いてあった事情などがあるのではないか。
 ところで、作品に全部書かれていないという意味では、丸谷才一の『横しぐれ』が傑作だと思う。出た時にどうだったのか調べていないのだが、文庫版二点では、解説を読んで初めて気づく構造になっている。