借金をする奴 

 俺は借金はしない主義だ。だから家でもマンションでもローンなんか組まない。毎月借家の家賃を払うのと同じですよ、などと言うが、同じじゃねえよ。途中で払えなくなったら元と同じ値段で売れるのかよ、嘘つくなよ。
 どうやら世の中には、借金込みで資産を考える奴がいるらしく、借金があって当然だと思っていたりするが、冗談じゃねえ。借金なんかする奴は俺からしたら、返せなくなったら死にゃあいいんだよ、ってな人種でしかない。なに、事業をやるには借入金なしではできない? ああ、だからそういう事業をやる奴は、いつでも自殺する覚悟してやってるんだろう。
 おっと、せっせせっせと働いているのに金がない、誰かが病気になってカネがいる、ってな借金はそりゃあ別だ。
 なんでこんなことを書いているかというと、ドラマ「ハゲタカ」の第一回を観たからだ。なんだこりゃ? 銀行から融資を断られて自殺しただ? 別に貧乏だったわけじゃないよな、立派な葬儀だったし、娘もきっちり育ってるよな、それで銀行員を「人殺し」だって? ふざけんじゃねえよ。
 それに宇崎竜童がやってる旅館主、お前、大きな旅館の息子に生まれて何不自由なく育ったんだろう、要するに「資本家」だろう? 「金持ち」だろう? 叩き上げじゃねえだろう? なにさまのつもりで、調子こいて人を「ハゲタカ」とか罵ってるんだよ、としか思わない。経営がうまくいかなくて莫大な借金抱えたら、売る。それ当然じゃねえかよ。
 まあこのドラマが、先どうなるか知らねえが、俺はそんな企業主が自殺しようが何だろうが、これっぽっちも同情する気にならないね。ならないんだけどNHKさん。第一回から観る者が感情移入できないドラマって、何よ?

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阪大を辞める時に、当時英語教室の主任だった森住先生という、いま桜美林の教授をしている人に、石橋駅前の喫茶店で、かなり強く慰留された。私が、二、三年はやっていけるくらい、貯金はありますから、と言うと、森住氏は、十年やっていける貯金があるというならいいですが、東京での再就職は厳しいです、と言った。それからもう、十一年である。禁煙ファシズムという、思いがけない敵が出現したとはいえ、森住先生の言は正しかった。
 明大で教えていた頃、講師室で、根津さんという人と話すようになった。当時40代半ば、家族もいて、多くの非常勤をかけもちした上に、夜は塾で教えているという話で、とても私にはできないなあ、と思いつつ、そのいつも明るい笑顔に、何とはなし、敬意を感じていた。ちょうど私が明治を辞める頃、根津さんは桜美林の出身だったので、そちらの専任になった。
 桜美林のサイトを見ると、この二人が間に一人はさんだだけで載っている。二人ともいい人たちだった。森住さん、根津さん、私はずいぶん遠いところへ来てしまいました。どうぞお元気で、と心の中で呼びかけるのである。