「蜘蛛の糸」の元ネタ

 作家の小林信彦について調べていたら、小林信彦(1935− )という学者の論文を見つけた。この人はインド古典学専攻で京大教授だった人である。

http://ci.nii.ac.jp/lognavi?name=nels&lang=jp&type=pdf&id=ART0008638439

 芥川龍之介の小説というのは、『中島敦殺人事件』にも書いたが、元ネタのあるものが多い。ここでは、「蜘蛛の糸」がポール・ケーラスというドイツ人の作を元ネタとしているが、ケーラスは、「これは俺の糸だ」とカンダタが叫ぶのを、「アートマン」(我)の実在を信じていることが明らかになったとし、それゆえに蜘蛛の糸は切れたとしているのを、芥川が理解していなかった、という論である。
 しかしこの副題も変だが、論文として読んでいて妙で、長尾佳代子(1966- )という京大で梵文学を修めた人がそのことを発見して発表した経緯などが長々と書いてあり、しかもその論文が学術誌に掲載されたについて、注の2、3で「非常に馴染みにくい素材であったが編集委員は時間をかけて精読し採用を決定した、その勇気は称賛に値する」とか、別の論文は初めから不採用が決まっていたとか書いてあるが、読んでいても何が「馴染みにくい」のかよく分からない。
 当の長尾氏のサイトがあった。
http://plaza.rakuten.co.jp/nagaokayoko/
http://www.ouhs.ac.jp/teacher/nagao_kayoko.html
 日記は五年も更新されていない。99年に「「薬師経」の目指した大乗仏教 -転輪聖王・八支斎」により京大文学博士だが、刊行はされていない。
 どうも、芥川の悪口だからというので忌避されるということもあったらしいが、今やケーラスの思想について仏教思想的な議論になっているようだ。その後どうなったのかは分からない。調べてみると、この主題について書いているのは、ほとんど小林氏と長尾氏のものだ。
 お二人、というか長尾氏には比較文学会に入って特別講演でもしてもらいたいところである。