「痴漢日記」を観る

 小沼雄一監督が名作だと言っていた「痴漢日記」を観る。いい。大竹一重が美しいから成り立っているというのは否めないが…。やはり「童貞放浪記」のほうが名作だと思う。
 しかし「それでもボクはやってない」がなんであんなに評価されたのだろう。やっぱり「痴漢冤罪」が話題になっていて、男たちがみな恐怖を抱いていたからであろう。刑事事件の捜査が強引であることなど、『真昼の暗黒』以来知られていることで、後藤昌次郎の『冤罪』なんてのも大学一年の時に読んだし、八海事件があの弁護士の弁論にもかかわらず高裁で有罪になるあたり、裁判がいかなるものかよく示している。
 竹下景子さんのお父さんは弁護士だったが、あれは法学者だったはずで、竹下さんは、ドラマなんかでは検事が犯人を追及する役で、弁護士は悪人を弁護する役だったから、なんで弁護士なんかになったのだろうと思った、と書いていた。もちろん、後で、そうではないと分かるという話だが、それを読んだ時、私にはむしろ弁護士というのは、冤罪から容疑者を救う人だというイメージがあったから、不思議に思ったものだ。竹下さんとは九歳違いだが、何か変遷でもあるのだろうか。私の高校生当時は大岡昇平原作の『事件』がシリーズ化されていたりした。また伊佐千尋の『逆転』なんてのもドラマ化されて、伊佐自身が自分の役で出演していた。『死刑台のメロディ』はサッコとヴァンゼッティだが、この邦題は何か誤解を招く。
 痴漢の罰条なんて大したことはないのだが、社会的制裁が大きい。逆にチャタレイ裁判とかサド裁判とか、文化人の猥褻物裁判の場合、有罪になってもかえって英雄になったりする。

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http://d.hatena.ne.jp/asinouda2/20090817/p1
 要するに元来そういう本です。 

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ツタヤ・ディスカスで観る映画がなくなってきたので、『ハリー・ポッターと賢者の石』を観る。2003年頃、明治大学で『エンジェル』を読んでいて、「ハーマイオニ」という、そう読みやすいとも思えない名前を女子学生たちがいかにもよく知っているように口にしていたのは、これのせいだったのかと知る。
 しかし、中途から「まさか…」と思い、最後まで観て、想像していた以上につまらないので愕然とする。原作はいいのだ、と言う人もいよう。翻訳が悪い、原文はいいのだ、と言う人もいよう。しかし、多分いずれもつまらないだろうと予想される。何だか私には『ハレンチ学園』のように見えたし、先生から点数をつけられるところは『がんばれ! ロボコン』のように見えた。全部物語のお決まりどおりである。何よりハリー・ポッターという少年が、優等生過ぎるのが最大の難点だろう。
 その昔、『E.T.』が大ヒットした時も、観てあまりにつまらないので驚いたが、まあ大人気作品というのはそういうものかもしれん。大人の観るものではない。
 ついでに言えば、『銀河鉄道999』のほうがよっぽど良かった。実は既にサブカルチャーの世界では、日本の創造力のほうが西洋を凌いでいるのだ。 

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少年ドラマシリーズの『森の秘密』はオランダの連続ドラマの少年探偵もので、おじいちゃんがどっかの社長だった、って話だったが、「銀細工師のアンソニー・スリンゲラント」という男が出てきた。

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全部読んでから何か言え、というのは正論だが、人生は限られている。私は『夜明け前』を四分の三しか読んでいない。もしそれで誰かが、残り四分の一が面白いのだ、と言ったら続きを読むだろう。時には十ページで放り出すこともあるが、もし信頼している誰かが、いや、もっと読んだら面白い、と言ったら読むかもしれない。これまで、最後まで読んで初めて作意が分かったのは、坂口安吾の『不連続殺人事件』で、これは推理ものだからだとも言える。
 (小谷野敦