小林氏は「国民主権」を言う者は左翼だ、としてこれを批判している。
しかしそれなら、なぜ、近世の庶民は天皇を知っていたなどということを、力説しなければならないのだろうか。それは「国民主権」への譲歩ではないのか?
あるいは、近世の日本人が天皇を知らないなどということになったのは、北条義時、足利尊氏といったとんでもない乱臣賊子、あるいは新田の子孫を称しつつ朝廷をないがしろにした徳川幕府が悪いのであり、明治維新によって日本の真の王者が明らかにされたのであり、愚かなる衆庶もその時そのことに目覚めたのだ、と言えばいいではないか。
西尾幹二となるともっとあれで、国民は天皇を支持してきた、などと言うが、じゃあ支持しなかったら革命が起きてもいいんですか、と言いたくなる。
「民は依らしむべし、知らしむべからず」が、当為のベシではなく必然のベシだと、呉智英先生は言うのだが、当為でも必然でも、近世庶民などというのは愚かだから天皇を知らなかったのだ、と言えばいいではないか。
だから愚かな庶民を啓蒙して天皇の存在を知らしめたら、困ったことに庶民は天皇制批判まで学んでしまった、というのが「啓蒙の弁証法」か?
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ああ、栗原さんが、文藝誌から決して声がかからないという、私の道を後から意気揚々とついてくる……。
村上春樹、これでもうノーベル賞はとれないね。『1Q84』みたいな二流アクション+ポルノ小説が訳されてしまったら、ノーベル賞委員会から見放されるだろうから。あのねノーベル賞委員会ってけっこう「私小説」好きなんだよ。ソール・ベロウだって『ハーツォグ』で貰ったし、ゴールディングにも『自由な転落』があるし、大江だって『個人的な体験』があるでしょ。君の好きなレイモンド・カーヴァーなんて、あっちじゃ通俗作家なのは知ってるでしょ。まあそれを言ったらポール・オースターだってそうだけどね。ヘミングウェイなんか『老人と海』で与える、って言われて、『武器よさらば』だの『誰がために鐘は鳴る』なんて通俗小説に与えるんじゃない、って言われてるしね。通俗作家のモームなんか無視してチャーチルにやったしね。ノーベル賞は、通俗作家は貰えないんだよ。君がとるくらいなら、なんでサリンジャーにやらないんだ、ヴォネガットにやらなかったんだ、って話になるでしょ。アメリカで有力なのはフィリップ・ロスとドン・デリーロだよ。君みたいに物語に逃げ込む人には、くれないよ。ま、日本人で次にとるのは、多和田葉子だね。
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佐伯順子さんの新刊を見たら、あとがきに「故・島田謹二」への謝辞まであったが「勤二」と誤記してあった。ヨコタ村上の誤記癖がうつったか。
(小谷野敦)