谷岡雅樹はすごい

 キネ旬ベストテンを目安に映画を観ているくせにキネ旬本誌なんか20年以上見たことがないのに、前回の「童貞放浪記」の評で、いったいこいつらはどういう映画の見方をしているのかと最新号を図書館で見たら、唯一「童貞放浪記」を褒めた谷岡雅樹の評が素晴らしいので、心の中でぱんぱん膝を叩いた。特に『サマーウォーズ』への罵倒なんか的確で、そうだそうだそう来なくっちゃあいけねえと寺岡平右衛門状態。調べたら私と同年だが、胃がんで胃の全摘出とかしている。
 もうこれからはキネ旬ベストテンではなく、谷岡雅樹のベストテンを観ることにする。
 『白い肌の異常な夜』みたいな楽しい映画を、山田宏一一人が9点を入れてあと全員無視なんて、おかしいのである。
 『童貞放浪記』は9月18日まで続映だそうです。二週間くらいで打ち切りかと思っていました。
クライマーズ・ハイ』の堀部圭亮は怖かったけれど、『童貞放浪記』の堀部さんは、渡辺某ほど怖くないです。
 小沼監督の「監督放浪記」が、感動の最終回を迎えました。
http://onuma.blog.shinobi.jp/Date/20090824/1/

                                                                        • -

『鴎外』という雑誌の81号(2007年)に平川祐弘先生の文章が載っているのだが、これが半分くらい小堀先生の悪口である。しまったこれを見ていれば『駒場学派物語』に使えたのに、と思いつつ、まあ見ていなくて良かったかも、と思う。

                                                                          • -

『オール読物』に北村薫さんと岸本葉子さんの対談あり。
 『鷺と雪』について、推せないと言っているのは阿刀田高渡辺淳一。これについては、文学賞は作品本位か功労賞かという問題がからむが、直木賞は功労賞で良いと思う。また、候補作を発表している以上、功労賞的でなければならないと思う。
 なぜなら、候補作を発表しなければ、北村さんは筒井康隆のごとく直木賞を超えた作家で済むわけだが、候補に挙げられるから、落とされるとがっくりしなければならないし周囲もおかしく思うのである。候補になることを辞退する作家もいるが、それだといかにも喧嘩を売っているようで、北村さんのような人にはできないことである。
 さて『鷺と雪』とそのシリーズについての評言で疑問なのは、ヒロインを「上流階級」と呼ぶ人が多いことである。確かに女子学習院に通っているらしいが、ヒロイン家は華族ではない。上流階級というのは皇族・華族のことであって、それ以外はいかに富裕であろうと「中流」である。むしろ英国では、家に使用人がいるのが中流の条件で、使用人もいない家など下層民であった。
 戦後となると、華族はいなくなるから、鳩山家などは上流でもいいだろうが、これは戦前の話である。

                                                                            • -

栗原さんがついったーで
「「なんで大学で教えないんですか?」という質問をけっこう頻繁にうけるんだけど、それはおれが決めるようなことじゃないんじゃ?(仕組みをよくわかっていない)……とTLに反応してみた。」
 と書いている。
 これについては、もうちょっと深いところで仕組みが分かっていない人が結構いて、たとえば蓮實重彦が総長をしていて蓮實先生と親しかったらその時東大の先生になれるかというとそんなことはない。学部長であってもない。任用は会議で決めるから、あくたもくたの支持が得られないと採用されない。

                                                                            • -

加藤政洋の新刊『京の花街ものがたり』(角川選書)が出ていた。前著『花街(はなまち)』で、花街と色街を別のものととらえて、花街というのは「かがい」と読み、色里を呼ぶ漢語だと指摘された加藤だがこの本で何か賞をとっている。「はなまち」は流布した読み違いである。
 今回は奥付に「かがい」とルビが振ってあるし、中でも一応「弁明」がしてあって、「狭義の花街」を藝妓のいるところとし、ベン図で説明しているがいかにも苦しい。間違うのは誰でもあることだが、重要なのはその間違いを素直に認めることである、と思う。しかし角川選書はどうもこの類が好きだな。
 (小谷野敦