大学一年の時、同じクラスにNという男がいた。筑駒から一浪で入ってきた。この男が、アニメ・少女マンガ好きであった。詳細は不明だがアニパロ同人誌にもかかわっていたらしく、私をアニメ好きと見て、時おりそのアニパロ誌を笑いながら見せるのだが、どうも面白くなかった。
 夏に『伝説巨神イデオン』の映画があって、その後クラス合宿で山中湖へ行った時、夜雑魚寝に近い状態で、私と彼が「あのガンド・ロワってのは…」などと話していて、他の連中がついてこられなかったりした。
 「オタクのはしりの話か」と思うだろう。だが、そうではないのだ。Nは、割と長身、ドイツ語クラスなのに、始めからかなりドイツ語ができ、知識は幅広く、話題も豊富で、合宿の時など、クラスに九人いる女子全員がNと行動を共にし、他の男子はほとんど茫然として男だけで行動するほどだったのである。男の側でも、Nがいると話が面白いというので、はじめの半年はNを中心にクラスが動いているようだった。
 サークルにいたK氏も、これに似たところがあり、結婚式の二次会で、『アルプスの少女ハイジ』のペーターとハイジのかっこうをして、同アニメのオープニングが流れる中入場してきたが、これまた女子にもてもてであった。
 一年生の頃の私は、それこそデヴィッド・コパフィールドがスティアフォースに対して抱くような「男の理想像」を、この二人あたりに見ていた気がする。
 このような経験から私は「オタクだからもてない」というのは嘘だと思っている。「オタクでしかないからもてない」とでも言うべきか。

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そういえば北村薫さんが、雑誌の付録というのは残らない、と話していたが、国会図書館では付録はどうしているのか、というに、1990年ころまではとっておいたのだが、種が芽生える、というような事件があって、以後廃棄するようになった、との説あり。種が・・・。

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駒場学派補遺」
 平川先生の著書に、筑波大から講演に呼んだ教授のそれが、準備不足でひどいもので、あとで「汗顔の至り」と手紙が来たが「同感の至り」と返事を出したかった、と書いてある。
 しかし、講演のその場で不満を表明したこともある。誰だか忘れたが西洋人が駒場へ来て日本語で講演をしたが、どうもちょっとまとまりがなかった。しばらくして彼は司会の平川先生に「まだ時間は大丈夫ですか」と聞いたが、平川先生は「いえ、もう結構です」と言った。彼はよく意味が分からなかったのかそのまま続け、その後は何ごともなかったが、あとで平川先生は「今日のあれはひどかった」と言っていた。

 (小谷野敦