小堀桂一郎の川端嫌い

(活字化のため削除)

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1931年生まれの医者から、『こころ』は私の愛蔵(愛読?)の本だとか言ってからまれたので、やはり同年の斎藤衛のことを思い出してしまった。渡辺秀樹を私にけしかけた爺さんである。阪大へ行ってほどなく、新任教員として何か研究発表をしろと言われたので、『こころ』がホモ的なところがあるという発表をしたら、この爺さん、漱石研究の現状など何も知らないくせに、さんざんからんできて迷惑だった。
 シェイクスピアが専門なのだが、碌に業績がなくて、教授の藤田実とは犬猿の仲で、二人して研究費で同じ本を買うものだから、二人が退官したあとは同じ本が二冊ずつ大量にあった。税金の無駄遣いだ。94年のシェイクスピア学会では特別講演をしたのだが、最近のシェイクスピア研究に文句をつけたのはいいが、時間が足りなくなって、ベルをチンチン鳴らされてうわうわ言っていた。平川先生など規定時間ぴったりに終らせる。学者としての格が全然違うのである。一年後に退官して武庫川女子大へ行ったが、今はどうしているやら。99年になってようやく単著を出したのだが、英国ロマン派専門の宮川清司という教授が、斎藤に著書がないことをさして「あれが本物の学者だ」と言ったと、これは伝聞である。

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某氏より、最近の村上春樹はどうか、と質問が来たのだが、私はもう春樹にはあまり興味がない。フェラチオしたがる女というのが精神を病んでいる女で現実にそういう女がいたのだろう、と前に書いたし、既に若者は村上春樹などではなくて伊坂幸太郎とかを読んでいる。若者に人気があるのは村上春樹、などと思っていることが、もう年をとった証拠なのだ。
 あ、それでまた思い出してしまった。平川先生の『アーサー・ウェイリー』のあとがきに、福岡女学院大学ウェイリー訳『源氏物語』を読ませたら、同僚からは無理だといわれたがさすが「英語の女学院」で、学生たちは薫大将が好きだ、煮え切らないと活発に意見を言った、「ゆとり教育が弊害を残したのは事実だが、『近ごろの学生は』と口にする同僚と廊下ですれ違うと、私はこの先生もすこし老化したな、と内心で思ったものである」などと若者理解者ぶりを示している。
 ところが457pの注18を見ると、学生は与謝野晶子の現代語訳すらなかなか読みとおさないので、一時期は『あさきゆめみし』を勧めて、それがはやると学生が全体の筋をよく把握するようになった、とある。こっちが本当だろう。

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http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090406#p2
http://www.minervashobo.co.jp/find/details.php?isbn=05330-8
どう考えたらいいのやら。出版社の企画か?
 (小谷野敦