やばいぞ「篤姫」

 やばいね。一時は「もう観ない」と宣言した「篤姫」だが、このところ、いけない。日曜になると「さあ今日は「篤姫」だ」と朝からそわそわ。来週は視聴率30%超えるね。(後記:超えなかった)
 何といっても、「実は賢君」だというフィクションの将軍がまずかったね。原作とも史実とも違うのだが、うまい。宮崎あおいまで最近かわいく見えてきて、大変やばい。
 フィクションと割り切って考えれば、シナリオの質は高いのである。『利家とまつ』の時みたいに、家臣の妻であるまつがしょっちゅう信長の前へしゃしゃり出たり、『功名が辻』の時みたいに、山内一豊とは関係ない事件にまでやたら一豊が関わったりという、一般人が見ても「嘘つけ」というようなところがない。それにあのフィクションは、仮に一般人が史実だと信じたとしても、さして害はない。それと、時間配分がうまい。『武蔵』の時みたいに、話を先へ進めすぎて、「それからの武蔵」まで行ってしまうなんてこともないし。
 「原作と違う!」とか言って騒がない宮尾登美子の大人ぶりも、さすが苦労人だ。ところでその原作、私は98年の文庫版22刷を持っているのだが、上巻の最後のほうで、篤姫が「海保青陵」という本を読むところがあって、「海保青陵」ってそれは人名だろう、と思っていたら、こないだ書店で確認したら「海保青陵の書いた『稽古談』」に直っていた。
 宮尾先生が十年間の不遇ののち、『櫂』を自費出版して太宰治賞をとったのは47歳の時だ。私もがんばって大河ドラマの原作作家を目指そう。
 (小谷野敦