反時代的考察

 私が『なぜ悪人を殺してはいけないのか』に「反時代的考察」と副題したのに対して、表題作の死刑存置論は、日本人の多数派が存置論であるから反時代的ではないだろうと言われた。しかし、大学教師や知識人、マスメディアの世界では、やはり反時代的なのだ。本村洋氏の手記が『Will』のような右翼雑誌に載ったことに、私は悲しみを覚える。こうして結局、死刑存置論者は保守派であり右翼的であるということになってしまうのだ。いったい、凶悪な殺人犯を死刑にせよと主張することがなぜ右翼的なのか。北朝鮮拉致被害者もそうだが、「なんとなく、リベラル」のマスコミによって、非道な目に遭った人々の家族が「右翼」的位置を与えられてしまうことに、私は憤りを覚える。
 死刑廃止論者よ、今からでも遅くはない。出獄してきた凶悪殺人犯の隣に住んでみよ。君たちにできるのは、せいぜい、牢獄内にいて自分自身の安全は保証されている状態の凶悪犯人に面会するくらいのことでしかないのではないかね。団藤重光よ森達也よ、出獄した凶悪犯罪者の隣に住め。原発が安全だというなら東京に原発を作れと言った者がいた。同じことだ。
 (小谷野敦