井上章一さんに嫉妬

 先週の毎日新聞に載っていた井上章一さんによる片山杜秀『音盤考現学』の書評を改めて読んで、文藝春秋のウェブサイトにある金益見のコーナーに井上さんの文章が載っているのを思い出して、ちょっと井上さんに嫉妬した。右翼研究家の、戦前の日本の作曲家の「神風協奏曲」が素晴らしいとかいった本を紹介し、美人女子院生の後ろ盾みたいな立場にいて、けれどべた褒めはしないで、日本だからラブホテル専門の建築事務所があるのだ、などと注文をつける。一瞬、他国にラブホテル専門の建築事務所がないかどうか調べようかと思ったが面倒なのでやめたが、井上さん、一人でおいしいところをさらっているようだ。

                                                                • -

「禁煙本」は何も今に始まったわけではなく、昭和31年に、ハーバート・ブリーン『あなたはタバコがやめられる』というのが、木々高太郎の翻訳で、早川書房からポケット版で出てベストセラーになっている。ブリーンは推理作家で、あまり作品は多くなく、1907−73である。タバコをやめたから66まで生きられたのか、やめられなかったから…かは知らない。
 数年前ベストセラーになった「禁煙本」のように、読者を脅したりはしていない。やめる方法が書いてあるだけで、始めの方はタバコがいかに素晴らしいか書いてある。しかも米国では、これを読んでタバコがやめられなかったら返金保証、早川書房でも、持参した場合に限って返金保証をしたが、金返せと言ってきた人はほとんどいないという。そりゃそうだ。定価百円で買ったものを、わざわざ東京の版元まで行って百円返して貰うだけでは、地方の人なら当然、首都圏在住者でも、足代のほうが高くつく。
 ところでこの本には、「禁煙を決心したら、タバコ以外のことは大目にみる」とゴチックで書いてあり、ぜひ守ってくれとある。著者は具体的には、酒とかお菓子とかについて書いているが、ああそりゃ、現代では無理な話だ。昭和31年なら、会社で女の子のお尻に触っても「セクハラ」なんて言われなかったし、「痴漢は重大な犯罪です」なんて言われていなかったし、携帯電話を見ながら歩いていたり自転車に乗っていたりする不届き者をどなりつけたくなる誘惑もなかったし、馬鹿が意見を言わなかったし、個人情報保護法なんて面倒なものもなかったし、・・・