罵倒日和

 いやーひどいものを観た。土曜にNHK教育テレビで放送していた「シェイクスピアソナタ」。緒川たまきが出ていたので観たんだが、30年前の清水邦夫の戯曲だと言われても信じるね。最初は、いかにもな演劇のパロディかと思っていたら、本気だから驚いた。もう、平幹二朗の絶叫芝居のタチの悪い模倣もいいところで、楽屋ものの、三角関係の、遂に姿を現さない重要人物がいての、まるで演劇のガラクタ展覧会だ。まあ、幸四郎が好きで、芝居なんか碌に観たことない、というような人には面白かろうが、演劇史への冒涜だよこんなものは。こんな芝居が絶賛されていたら、演劇評論家は団結して抗議しなきゃいかん。岩松了は『テレビ・デイズ』の頃から、評価に値しないウェルメイド作家だったが、ここまで堕落するか。

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アマゾンのレビューといえば、玉石混淆で有名だが、中には、本についての情報が得られるものも多い。しかし、レビュアーの無教養ぶりが、本を読まなくても分かってしまうものもある。新刊『秀吉神話をくつがえす』(藤田達生講談社現代新書)のレビュー。まず、名古屋市・稲垣亮祐

恐らく私がこの本をよまなかったら秀吉はただの運のいい平和主義を唱える武将にしかすぎなかったのではないだろうかとも思わせる。

 文章が既に変だが、朝鮮出兵を強行した秀吉がなんで平和主義者だ…。
もう一つは東京都の某

何かと人気が高い秀吉ですが、この本では実は裏切りもの、暴君、残虐、好色であったことが、資料から示されていきます。

 秀吉が好色だったのは天下周知の事実、晩年が暴君であり、秀次の妻妾を皆殺しにし、捕虜となった朝鮮人の耳と鼻を削がせるような残虐な「国王」であったこともしかり。織田信長の孫三法師を後継者として天下をとりながら、織田家など一大名に格下げしてしまった裏切り者であることも周知の通り。いったいこの読者は、何を読んで秀吉について知っていたのだろう?
 こう見てくると、題名に偽りありなのではないかとすら思えてくる。もしかすると司馬遼太郎の新史太閤記が最後まで書かなかったせいか? 繰り返すが、バカは意見を言わないように。

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 アルゼンチンで、大統領職が夫から妻へ継承されたというのでニュースになっているが、世界初でもなければアルゼンチン初でもない。現代のエビータなどと言われているが、エビータは、ホアン・ペロンが1940−50年代に大統領だった時の夫人で、もちろん大統領にはなっていない。ペロンは70年代に再び大統領になって、在職中に死に、後を三番目の夫人のイザベル・ペロンが継いだが、クーデターが起きてヘリコプターで逃亡、先日死んだところだったな。私も昔、エビータとイザベルを混同したりしていたっけ。
 (小谷野敦
付記:ブックマークコメントにこういうことを書いている者がいた。「いやいや、バカが意見を言ったっていいですよ。それこそファシズムだ。喫煙の害を否定する言論の自由だってあろう。」この人は、「言論の自由」という語の意味を誤解しているようだ。これは、政府、あるいはマスコミなど、権力のある者による言論の封殺に対して言われる言葉であり、「バカは意見を言うな」というのは一私人に過ぎない私の意見であるから、「言論の自由」とは関係ない。そして私にはそういう意見を言う言論の自由がある。だが、政府、ないし国家公務員が「バカは意見を言うな」と言ったら、これは言論の自由の弾圧である。それが片々たる無名の人物であろうと、国家公務員であれば、そうなる。この人は医者のようだが、もう少し社会科学系の勉強もしたらどうか。