田中優子『藝者と遊び』を読む

 時あたかも横山泰三が死んだ。かつて朝日新聞に長く連載された一コママンガ「社会戯評」は、少なくとも1970年代からは面白くも何ともなく、ただ社会ネタをマンガに図案化しただけのもので、呉智英先生から罵倒されていた。椎名誠も言っていたように記憶する。
 そして今私が感じているのは「山藤章二横山泰三化」である。「週刊朝日」連載の「ブラック・アングル」は、かつては一世を風靡し、単行本にもなったが、2001年を最後に単行本化されなくなった。しかし連載はなお続いている。さて、今週の「ブラック・アングル」だが、安倍内閣支持率急降下、ということで、安倍を機長とする飛行機らしきものが急降下するマンガである。おもしろくも、何ともない。何ごとも長く続けるとこうなるという、いい見本であろうか。

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 さて田中優子『藝者と遊び』だが、何も田中優子だから、粗探しをしようというのではない。谷崎の話が多いというので見てみたのだが、やっぱり変である。まず祇園の話で、明治45年の春から夏にかけての、谷崎と長田幹彦の「京阪流連荒芒」について書いている。これは谷崎の『青春物語』に詳しく、その内容が全部ほんとうかどうか疑問は出ているが、だいたいその通りと思われる。しかし田中は、谷崎が東京から「逃亡」したと書く。大毎東日から、京阪見聞記を書く約束で出かけたのに、なぜ逃亡になるのか。
 しかも谷崎が京阪にい続けたことについても、「帰る汽車賃がない」などと書いている。しかし『青春物語』では、「旅費がなかったからばかりではない」として、汽車恐怖症が復活したことについて長々書かれているのだから、田中の記述は変である。
 もっとも、あとがきを見ると、この本は白倉敬彦が半分くらい書いた、とある。じゃあ共著ではないか。それに、文学者と芸妓について書くなら、大阪の芸妓と結婚した里見恕sのことを書くべきである。それに、129pと133pに、磯田多佳女は岡本橘仙の「側女」だったと二度も書いてあるが、これは編集の見落としだろう。しかし「側女」は変だ。
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http://www.pipeclub-jpn.org/column/column_01_detail_06_02.html
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 (小谷野敦