宮原昭夫の少女小説

 宮原昭夫という作家を知っている人は少ないだろう。1972年、39歳で芥川賞をとっている。だから今は73歳ということになる。
 最新の著作は2002年の『シジフォスの勲章』だが、これも品切れで、現在生きている著作はない。NHKの少年ドラマ『あなたの町』の原作者でもある。
 しかし、かつて私は宮原の「少女小説」に夢中になったことがあった。芥川賞受賞前後の作品で、文学界新人賞をとった「石のニンフ達」や「駆け落ち」などである。少女小説といっても、吉屋信子のようなのではなく、少女を描く小説である。太宰治の「女生徒」とか、川端康成のあれこれのようなものだ。だが宮原の描く少女は、その年代相応に意地悪でかつキュートだった。ただし芥川賞受賞作は、障害児を描いたもので毛色が違う。その後宮原は『海のロシナンテ』のような海洋冒険小説、『陽炎の巫女たち』のような女性青春小説を書いているが、実は読んでいない。しかし、「石のニンフ達」「カッサンドラの地獄」などは、宮原昭夫傑作短篇集として講談社文芸文庫あたりで復刊してほしいくらいの佳編である。
 もっとも、今では「ロリコン作家」などと思われてしまいそうだが、女子高生を描いてロリコンってことはあるまい。これを読んで、おっ、おもしろそうだと思った人は、古書検索か図書館で宮原作品をぜひ読んでみるべしである。