北大教授の澤口俊之が、職員へのセクハラで解雇された。澤口は否定し、争う構えである。さて、聖心女子大助教授が地方で「盗撮」をして警察に逮捕されて解雇されたり、植草一秀が鏡で覗きをしたとして逮捕されて早稲田を解雇されたりした時、多くの大学教員が思ったのは、「警察沙汰になったから仕方なく解雇しただけで、もっと悪いセクハラをしているのに見逃されているやつは大勢いる」ということだったろう。特に、被害者が自らのプライバシーを考慮して訴えなければ、大学側としてはしめたもので、仮に公表しても、被害者のプライバシーのために実名は出さない、ということが多い。むろんその周囲の人は知っているわけだが。しかし、それが本当に「被害者のため」なのか、私は前から疑問に思っている。
 私が阪大にいた頃も、フェミニスト風某助教授がセクハラ事件を起こし、怒った私はそのことを告発する文書をあちこちに送付した。しかし部長はそのことを咎めて「それを知ったら被害者の××さんがどんなに嘆き悲しむか」などと私に言ったのだが、そうですかねえ部長さん、闇から闇へ葬り去ろうとしているあなたが困るんじゃないですか、と私は思った。実際事務長などは「学内の女性団体にビラでも撒かれたら大変だ」と言っていた。
 呆れたのは全国大学キャンパス・セクハラ協議会代表のKである。私が電話してこの事件を告げると、ああそれはひどいですねえなどと話を聞いていたのだが、加害者の名を言ったとたん、「まあ、当人にも未来がありますからねえ」などと言い出したのである。フェミ業界で地位を得ているとこういうことが起こる。
 いちばん立派だったのはその似非フェミ助教授の夫人で、今は亡き渡辺和子さんと一緒に、被害者女性に、訴えを起こすよう説得したのである。その後、離婚した。だがこの加害者助教授は私を部屋に呼んで「なんで妻に言ったんだ」と詰ったのである。図々しい。この男、酒癖が悪く、言葉でのセクハラは日常茶飯事、その時は実際に暗闇で女性に抱きついたわけだが、私はその際「彼女のいる席で酒を飲まないように」と要求したのだが、こやつ、顔をしかめて「ええ〜、酒呑むなってのか」などと言ったのである。何も一人で呑むなら構わんと言ったのだが、盗人猛々しいとはこのことだ。
 この件は胸に秘めていたが、たまたま私が阪大を辞めるきっかけとなった事件と同じころ起こったので、私がセクハラをして辞めさせられただのといい加減な風聞を流す輩が絶えないので、あえて公開する。              (小谷野敦

 http://www.lang.osaka-u.ac.jp/~murakami/takmanj.htm