荒木優太氏から恵贈いただいた『これからのエリック・ホッファーのために』についてアマゾンレビューを書こうかと思ったのだがこっちに書く。
 これは、物故者である16人の「在野研究者」の列伝体をとりながら、おもに大学院へは行ったけれど就職がおぼつかないという人を読者対象にして、在野で生きていく心得などがちりばめられている。
 16人は、三浦つとむ谷川健一相沢忠洋、野村隈畔、原田大六、高群逸枝吉野裕子、大槻憲二、森銑三平岩米吉赤松啓介小阪修平、三沢勝衛、小室直樹南方熊楠、橋本梧郎である。
 列伝としてはよく調べたなあと感心するのだが、どうも引っかかる点がいくつかある。一番は経済的な問題だが、高群や吉野は夫がいるし、熊楠は家の財産がある。小室はうっすいカッパブックスみたいな時にはスカスカの本を出していた。大槻もかなり通俗書を出して生計のたしにしていた。また37歳で心中した野村はあまり参考になるまい。
 また「大学や組織に属さず」とあるが、森は図書館員だし、谷川は途中まで編集者、しかも成功者であり、弟に谷川雁や章雄がいた。小阪は塾や予備校で教えた。
 「学歴がない」人もいるが、想定読者は、むしろ博士号まで持っているのに就職できなくて苦しんでいるのだから、そこでズレが生じるだろう。
 助成金について、大学に属さなくても受けられる「推奨研究」というのがあると書いてあるが、まあ大学に属さないとよほど難しい。大学に属しているとバカみたいにホイホイとれる。あと概して研究助成は、領域横断的な研究とか、国際交流に資するとかそういうのが多く、人文学の地味な研究にはまず出ない。私は以前、ある財団の助成金を、自著を海外で翻訳するためにとろうとしたが、これは訳す人と出版者が決まっていないと出ない。で、決まりかけたのだが、東アジアの大きな国で、漫漫的な国の出版者が、出すと言いつつ期限までに書類を出さなかった、ということがあった。
 どうもあんまり「普通の、そこそこできて博士号もある」在野研究者の参考にならないんじゃないか。
 まああと私は酒が飲めないので、定期的に仲間と飲み会をもつ、とかいうのも、これはない、と思った。荒木氏は酒呑みらしいので、体には気をつけていただきたい。