栗本慎一郎の小説

 栗本慎一郎には、小説が一冊ある。『反少女』という。
http://www.homopants.com/info/books2.html
 ウェブサイトでは「謎の処女小説」とあるが、栗本が小説を書いた最初は、1984年2月『野性時代』の「敵意」で、次に5月に「紐育の少女 小説・林真理子」を書き、9月に「白雨の少女 小説・林真理子パート2」、そして85年3月に「反少女」という流れである。
 栗本は80年12月に一般書『幻想としての経済』を刊行、当時39歳で、これが話題になってじわじわメディアに進出、81年4月には『パンツをはいたサル』をカッパ・ブックスから出して一躍知識人社会の有名人になる。私は予備校生から大学生になったころで、実はろくに読みもしないで、栗本慎一郎が、とか言っていた。
 84年5月には『幻想としての経済』が角川文庫に入り、これは買った。同じ月、筒井康隆の『虚航船団』が刊行され、「面白くない」と言った栗本は筒井から渡部直己らととともに反撃を受け、11月にはその文章を含む『反文学論』を光文社文庫から出すなど、文学に乗り出す気満々であった。
 栗本は、川島なお美の小説集『彼女のスペア・キー』祥伝社ノン・ポシェット 1990)の解説も書いており、これは川島の父が裁判官で栗本の父の後輩だったから。
 で、「小説・林真理子」は、こう銘打ちつつ中は変名で「森真樹子」になっている。語り手は中川というマスコミ学者で、林真理子とニューヨークで開かれた文化イベントで親しく話すようになる。この年林は『星影のステラ』を『野性時代』一月号に発表して直木賞候補になっている。『野性時代』副編集長の見城徹も変名でよく出てくる。あと中川が、自分と同じ姓の中川薫という女流作家としているのは栗本薫で、自分は美人でいい男と結婚できたから林真理子が嫉妬しているんじゃないか、などと言う。
 これも変名で矢川澄子が出てきて、栗本は愛読しており、少女のようだと言う。だいたい、もう30近い林真理子を「少女」と言っているのである。
 果たして栗本慎一郎がこの当時、直木賞を狙っていたかどうか、それは川口さんがあとで書いてくれるでしょう。