西村伊作伝

 黒川創が『考える人』で西村伊作伝の連載を始めた。私の友人の加藤百合さんは、修士論文が伊作伝で『大正の夢の設計家』(朝日選書)として出ており、その後田中修司という人が東大で『西村伊作の楽しき住家』(はる書房)で工学博士号をとっている。この人は高校教師だから、いわば在野の研究者だ。上坂冬子にも、伊作の娘たちを描いた『愛と反逆の娘たち』(中公文庫)があって、私は加藤さんのしか読んでいないが、とりあえず伝だから、残念ながら初の伝ではない。黒川はまだこれら先行研究には触れていないが、私なら第一回で、伊作伝はこれこれがある、と書いておくがね。学者じゃないからそんなものかな。
 ところで一ヶ月ほど前に近所の図書館で川本三郎とすれ違ったのだが、ひどく疲れた顔をしていて、どうしたのだろうと思っていたら、奥さんが死の床にあったのだね。
 昨日の毎日新聞に、批評雑誌の創刊についての記事が出ていた。東浩紀北田暁大のやつで、NHK出版から年二回というから、まあどこまで続くか。柴田元幸も雑誌を出したし、もっとも数年前にも、大塚英志と東で『新現実』を出し、鎌田某が『重力』を出すとかいうのがあって、しかし前者はいつしか二つに分裂したし後者は二号で潰れたのか? 福田和也坪内祐三は『En-taxi』を維持している。
 私も雑誌が欲しいなあ、と最近よく思う。しかし出版社がついてくれて、ある程度売れなきゃダメなわけだし、ムリだろうねえ。

 (小谷野敦