バーナード・ショーの謎

アマゾン・プライムに1938年の映画「ピグマリオン」が入っていたので観たが、イライザ役のウェンディ・ヒラーは美しくないし、なんだかモームの「人間の絆」を映画化した「痴人の愛」を思い出したのは、ヒギンズ役がレスリー・ハワードだったからだ。私は『…

音楽には物語がある(4)フニクリ・フニクラ 

「フニクリ・フニクラ」というイタリアの歌がある。日本語歌詞では、ヴェスヴィオス火山への登山電車ができたので「誰でも登れる」というもので、子供のころは、変な歌だなあと思っていた。だいたい「赤い火を吹くあの山へ」とか「ここは地獄のベスビアス」…

綿野恵太VSスティーヴン・ピンカー

『群像』七月号に綿野恵太の「ピンカーさん、ところで、幸せってなんですか?」が載って、ピンカーよりフーコーのほうが好き、などと綿野君が言っていたのだが、『群像』は一か月たたないと図書館で借りられないので今日やっと借りられた。 『21世紀の啓蒙』…

「ノンフィクション」って何?

大宅壮一メモリアルノンフィクション賞と河合隼雄学芸賞を受賞した小川さやかの『チョンキンマンションのボスは知っている』を読んだら、あまり面白くなくて途中でやめにした。小川はノンフィクション作家ではなくタンザニアが専門の文化人類学者で立命館大…

音楽には物語がある(3)マチルダ 中央公論2019年3月

トルーマン・カポーティの『ティファニーで朝食を』は、今では村上春樹の翻訳が出ているが、それまで流布していたのは、新潮文庫の龍口直太郎の訳だった。(たつのくち)表紙は映画からとったオードリー・ヘプバーンで、ただ私はそれほど面白い小説だとは思…

『魅せられたる魂』と川端康成」文學界2019年7月

ロマン・ロランの『魅せられたる魂』は、ラウール・リヴィエールという五十を前にして死んだ建築家の、母親の違う二人の娘、アンネットとシルヴィを主人公にし、その数奇な人生を描いたものである。その最初のほうに、 アンネットは気づいてみるとなるほど夜…

音楽には物語がある(2)現代詩 中央公論2019年2月

小学校高学年の頃、音楽室から合唱曲が聞こえて来ていた。大人になって、あれはいい曲だったなあと思って探したら、子供用合唱曲「トランペット吹きながら」であることがすぐに分かり、それの入ったLPを買った。作詞は詩人の中村千栄子、作曲は湯山昭で、…

書評・スティーブン・ピンカー『21世紀の啓蒙』週刊朝日3月27日

「近代が諸悪の根源だ」と言った作家がいた(車谷長吉)。おそらく彼は地主の家 に生まれたので、農地改革で土地を失ったと感じたのだろう。だが必ず しもそういう理由でなく、二十世紀は二度の世界大戦で未曽有の死者を 出したとされ、核兵器によって人類は…

音楽には物語がある(1)あずさ2号 中央公論2019年1月

兄弟デュオ「狩人」のデビュー曲にして唯一のヒット曲「あずさ2号」は、一九七七年のリリースで、当時私は中学校三年生だった。 「八時ちょうどの、あずさ2号で」と、歌の語り手であるヒロインは「春まだ浅い信濃路へ」、恋人を置いて別の男と旅立つのだが…

「あるいは裏切りという名の犬」と男の子っぽさ

フレンチ・ノワールの映画「あるいは裏切りという名の犬」を観たのは、「おんな城主直虎」のうちのサブタイトル「あるいは裏切りという名の鶴」の元ネタだったからで、映画の原題は「オルフェーヴル河岸36番地」なので、邦題は筒井康隆の「あるいは酒でいっ…

「コマンドー」(マーク・レスター)中央公論2018年12月

夏樹静子の初期長篇『蒸発』の冒頭で、離陸した飛行機から、乗ったはずの乗客が一人いなくなっているというトリックが出てくる。けっこう複雑なトリックだったが、「コマンドー」でアーノルド・シュワルツェネッガーは、離陸した飛行機から車輪脇の出口を使…

ご飯だご飯だ

私はYMCAのキャンプに一度だけ参加したことがある。友人の川田と二人で行ったので中学生のころだが、そこで「線路は続くよどこまでも」の替え歌「ご飯だご飯ださあ食べよう」を初めて聞いた。 この替え歌については、祖父の代からキリスト教の阪田寛夫の…

「だれかの木琴」(東陽一)中央公論2018年10月

先日、某週刊誌が、同誌読者が選んだ「美熟女」の中で五位になった女優Sについてのコメントを求めてきたのだが、その際、常磐貴子はいないんですかと訊いたら、はるか下七十位くらいにいたという。このアンケートでは上位にまだ三十代の壇蜜もいたし、おそ…

「パッセンジャー」(モルテン・ ティルドゥム)中央公論2018年9月

特撮ドラマ「シルバー仮面」の最終回が、アンドロメダ星雲からやってきて死んでしまった女の赤ん坊を帰すため、春日兄弟が光子ロケットで往復六十年かけてアンドロメダへ行くために出発するという話だった。一九七二年の放送だから、帰ってくるのは二〇三二…

「リメインズ 美しき強者(つわもの)たち」(千葉真一)中央公論2018年8月

大正四年に北海道の三毛別などで人喰い熊が現れて数人が犠牲になり、軍隊まで出動して、村民たちは避難し、熊撃ち名人が仕留めた話は、吉村昭の『羆嵐』で知られるが、この事件の実録もあり、吉村は熊撃ちを変名で書いていて、果して吉村のオリジナリティは…

「トンネル 闇に鎖された男」(キム・ソンフン)中央公論2018年7月

韓国はある種厄介な国だ。私などは文学の人間だから、他国への関心の持ち方は、だいたい文学から入るのだが、韓国には今もってこれという文学がない。ノーベル賞候補とされる詩人・高銀がいるが、他言語の詩は入りにくく、やはり小説がほしい。その一方、韓…

「クリーピー」(黒沢清)中央公論2018年6月

私は、映画はシナリオが一番大切だと思っている。もちろん世間には、シナリオより映像を重視する人もいる。だが小説でも、私は筋を重視する。筋のない小説にも優れたものはあるが、筋がないに近いものを文章だけで評価するということはあまりない。 『クリー…

「コンペティション」(オリアンスキー)中央公論2018年5月

プロコフィエフのピアノ協奏曲三番を聴くたびに、なんとプロコフィエフという人は偉大なのだろう、なぜ人々はもっとプロコフィエフを、モーツァルトやベートーヴェンのように崇めないのだろうと思ってしまう。「日本プロコフィエフ協会」というのがあったら…

「今度は愛妻家」(行定勲)中央公論2018年4月

「ネタバレ」ということがうるさく言われるようになって十年ほどであろうか。私の若いころももちろん、推理小説の犯人は読んでいない人に教えてはいけない、ということはあったが、さほど厳しい話ではなかったし、読んでいる最中の人に言うのと、まだ着手も…

「ミスト」(フランク・ダラボン)2018年3月

スティーヴン・キングという作家は、日本ではむしろ「キャリー」や「シャイニング」などのホラー映画の原作者として知られ始めたと記憶する。 私がキングの原作で読んだことがあるのは、よりによって凡作の『ファイアスターター』(映画邦題は『炎の少女チャ…

背徳学校

F・レンジェルの『背徳学校』(鷹書房なすび文庫、1969)を手に入れた。ポルノらしいがまったく解説がない。どうやらスコットランドのトロッチという作家の変名らしい。 Alexander Trocchi - Wikipedia

「トレジャーハンタークミコ」(デヴィッド・ゼルナー)中央公論2018年2月

先ごろ高齢で死去した米国の作家ウィリアム・ギャスは、ノースダコタ州ファーゴの出身である。そのファーゴを舞台にしたコーエン兄弟の「ファーゴ」という映画がある。狂言誘拐事件を描いたものだが、さして面白くはない。その中に、奪った金の入った箱を雪…

「昨日・今日・明日」(デ・シーカ)中央公論2018年1月

ヴィットリオ・デ=シーカといえば、戦後のネオレアリズモ映画、「自転車泥棒」と「靴みがき」で知られる。私は学生のころ、テレビで放送されたこれらの映画を観て感心したものだ。 一般論として、自転車を盗まれるというのは実に嫌なものだ。当面、家へ帰る…

「ルート二二五」(中村義洋)中央公論2017年12月

藤野千夜の長編小説を映画化したものだが、日常SFものという感じで、中学三年生の女子とその弟が、ある時、ほかは同じなのだが家に両親がいないパラレルワールドへ入り込んでしまうというものである。 姉のエリ子を演じるのは、当時十七歳だった多部未華子…

「ザナドゥ」(一九八○)ロバート・グリーンウォルド 中央公論2017年11月

「アイドル歌手」とは言うが、「アイドル俳優」とか「アイドル女優」とはあまり言わない。アイドル歌手は、日本特有の、一九七○年代から生まれたもので、若い女でかわいらしく、歌唱力は二の次にして男たちに人気があるというそういうものだろう。韓国にも最…

「俳優亀岡拓次」(横浜聡子)中央公論2017年10月

麻生久美子が美しいので見ていて苦しくなる、というネット上の書き込みを見たことがある。ほかにも、テレビに出た女性学者が美しいので苦しくなるという声があった。自分には手が届かないから、とも考えられるが、気持ちの持って行き場がないという意味でも…

「キック・アス」(マシュー・ヴォーン)2017年9月

アメリカンコミックの映画化である。ニューヨークに住むデイブというさえない青年が、自分もアメコミのヒーローみたいになりたいと妄想して、スーパーマンみたいな恰好をして悪童連と戦うのだがボコボコにされる。だがその後、たまたま勝利を収めて「キック…

「シン・ゴジラ」(庵野秀明)2017年8月

「シン・ゴジラ」については、やたらいろいろな人が語っている。私のように、怪獣映画は全部観てきたというような人間からすると「ニワカがあれこれ言いやがって」というのが本音なのだが、空気を読んでみなそういうことは言わずにいる。 この映画では、六十…

「修道女ルチア 辱す」(小原宏裕)中央公論2017年6月

「にっかつロマンポルノ」が始まったのは一九七一年で、私は小学三年生だから知らなかったが、日活という映画会社は「大巨獣ガッパ」で知っていたから、高校生くらいになって、五大映画会社の一つが、もっぱらポルノを作るようになったということを知ってに…

「草の上の月」(ダン・アイアランド)中央公論2017年5月

一九七八年に、NHKで初のオリジナルアニメとして「未来少年コナン」が始まると聞いた時、私は「コナン・ザ・グレート」かと思ったのだが、別にそれはそのコナンを読んでいたからではなく、創元推理文庫にコナン・シリーズが入っているのを知っていただけ…