野口武彦『元禄五芒星』アマゾンレビュー

2021年3月23日に日本でレビュー済み

 
「元禄六花撰」の続きで五編の小説風評論を載せる。大石主税衆道的側面を描いた「チカラ伝説」と、大野九郎兵衛の息子を描いた「元禄不義士同盟」はなかなか面白い。だが戸田茂睡を描いた「紫の一本異聞」、忠臣蔵の経済的側面を論じた「算法忠臣蔵」、荻生徂徠豆腐屋の因縁を「こんにゃく問答」からとった「徂徠豆腐考」はイマイチ。

近松門左衛門と坂田藤十郎(2)

近松門左衛門と坂田藤十郎 - jun-jun1965の日記

 ここに書いた、近松坂田藤十郎の関係について、藤本義一が「人面瘡綺譚」という短篇を書いていた(『生きいそぎの記』講談社文庫)。藤十郎の側から、人形浄瑠璃のほうへ寝返った近松を恨む内容で、これは藤本の想像で書いたものだろうが、何か典拠があるのかもしれない。

 

佐々木たづ「ロバータさあ歩きましょう」アマゾンレビュー

2021年3月22日に日本でレビュー済み

 
著者は高校三年の時目の病気のため失明し、童話作家として立ち、英国で買って来た盲導犬ロバータという話で、エッセイストクラブ賞を受けている。1954年のことなので、著者の家はかなりいい家柄でお金持ちだったらしく、治療のために軽井沢の土地を千坪処分したとか書いてあり、「お金持ちですね」と思うし、家は成城にあり、作家になれるかツテをたどって野村胡堂に訊きに行ったり、自費出版の最初の童話集に武者小路実篤坪田譲治の序文をもらうとか、その当時のアッパーミドルクラスならではの記述が続き、そこそこ白ける。

新刊です

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著書訂正:
12p、初代両国国技館が第二次大戦で焼け、蔵前に移ったという記述は、両国国技館は軍部に接収、戦後は米軍に接収され、日大講堂になった、と訂正
61p、北尾(双羽黒)について、優勝経験なく横綱になったのは初、は訂正し、優勝経験なく辞めた横綱は初、とする
64p、控え力士が物言いをつけたのは白鵬だけ、とあるが、96年初場所貴闘力土佐ノ海貴ノ浪が物言いをつけた例、2008年秋場所序二段の笹山(木瀬)―桑原(錣山)で、笹山に軍配が上がったが、西の控えにいた星ケ嶺(井筒)が物言いをつけた例があるので訂正。
147p、貴乃花武蔵丸に勝ったのは「寄り切り」ではなく「上手投げ」
192p「立川」のルビは「たてかわ」
195p、魁皇大分県出身ではなく福岡県出身
237p、「帯状疱疹」ではなく「蜂窩織炎
巻末の年寄名跡一覧から以下が抜けていました

荒磯(大豪―二子岳―琴錦玉力道玉飛鳥稀勢の里

浅香山(若瀬川―青葉山大若松―智乃花―琴錦闘牙起利錦魁皇

阿武松(大晃―益荒雄―大道)

芝田山(宮錦―若獅子―大乃国

錦戸(大田山―富士乃真水戸泉

二十山(青ノ里鏡里佐田の海―闘竜―北天佑―燁司―栃乃花

放駒(魁傑―玉乃島

 

大林宣彦「海辺の映画館」アマゾンレビュー

2021年3月10日に日本でレビュー済み

 
美少女を裸にするのが好きだった映画監督が、晩年、世間から褒められたくて凡庸な平和主義に陥り、まんまと世間に褒められて死んだ。その集大成みたいな映画だが、なんで西郷隆盛みたいな右翼の原点を礼讃するのか、生きていたら訊いてみたかった。

仁科邦男「犬の伊勢参り」アマゾンレビュー

2021年3月11日に日本でレビュー済み

徳川時代後期に、山形とか長州とかから犬が単独で伊勢参りをしたという共同幻想があった、ということが書かれている。しかし著者は実際に犬が伊勢参りをしたと信じているが、それは誰かが犬のあとをこっそりつけて伊勢まで行かないと証明できないので、著者があげる送り状などの史料は歴史学的証明にはなっていない。司馬遼太郎は合理主義的にこんな話は伊勢の御師が広めたのだろうと書いているが、著者はカンカンになって司馬を批判している。これは著者のほうがおかしいので、まあ右翼的な風潮の中でこんな話が蒸し返されているのが現状であろう。名犬ラッシーのように遠くからもといた家へ帰るのは分かるが、伊勢神宮まで行くというのがほぼありえない。

杉本苑子「西鶴置きみやげ」

 杉本苑子の短篇「西鶴置きみやげ」は、『オール読物』1968年11月号発表で、同題の短編集(月刊ペン社、1971)に入っている。西鶴の半生を「代作説」で描いたものだ。西鶴俳諧師だが、『好色一代男』は死んだ妻の兄の寺内兵庫という架空の人物が書いたもので、書肆からほかにも浮世草子を書いてくれと言われるが書けずにいる。すると、色を売っている青年が、「大下馬」という浮世草子を書いているのを知る。これが北條団水で、西鶴の弟子で、「一代男」以後の作品は団水の代作ではないかと言われている。これは森銑三が打ち出した説だが、十分に立証はされていない。

 この作中の団水は、右手がなく左手も指が二本ない上、気の狂った姉と一緒に夫婦同然の生活をしている。しかしカネには困って色を売っているので、西鶴はカネをやるという約束で団水に次々と浮世草子を書かせる。

 西鶴には含という娘がいて、利発で妻がわりをしているが、この娘が、団水と一緒になりたいと言い出し、西鶴はダメだと言うが、含は入水自殺してしまい、西鶴はそのショックから寝込んで、ついに死んでしまう。

 団水の姉も自害みたいな感じで死に、団水は西鶴の遺稿として『西鶴置土産』『万の文反故』などを刊行し、自作も出して死ぬ。という筋立てである。

 割と面白かった。もっとも私は西鶴の作、特に好色ものは評価していない。