2021年3月23日に日本でレビュー済み
仁科邦男「犬の伊勢参り」アマゾンレビュー
2021年3月11日に日本でレビュー済み
徳川時代後期に、山形とか長州とかから犬が単独で伊勢参りをしたという共同幻想があった、ということが書かれている。しかし著者は実際に犬が伊勢参りをしたと信じているが、それは誰かが犬のあとをこっそりつけて伊勢まで行かないと証明できないので、著者があげる送り状などの史料は歴史学的証明にはなっていない。司馬遼太郎は合理主義的にこんな話は伊勢の御師が広めたのだろうと書いているが、著者はカンカンになって司馬を批判している。これは著者のほうがおかしいので、まあ右翼的な風潮の中でこんな話が蒸し返されているのが現状であろう。名犬ラッシーのように遠くからもといた家へ帰るのは分かるが、伊勢神宮まで行くというのがほぼありえない。
杉本苑子「西鶴置きみやげ」
杉本苑子の短篇「西鶴置きみやげ」は、『オール読物』1968年11月号発表で、同題の短編集(月刊ペン社、1971)に入っている。西鶴の半生を「代作説」で描いたものだ。西鶴は俳諧師だが、『好色一代男』は死んだ妻の兄の寺内兵庫という架空の人物が書いたもので、書肆からほかにも浮世草子を書いてくれと言われるが書けずにいる。すると、色を売っている青年が、「大下馬」という浮世草子を書いているのを知る。これが北條団水で、西鶴の弟子で、「一代男」以後の作品は団水の代作ではないかと言われている。これは森銑三が打ち出した説だが、十分に立証はされていない。
この作中の団水は、右手がなく左手も指が二本ない上、気の狂った姉と一緒に夫婦同然の生活をしている。しかしカネには困って色を売っているので、西鶴はカネをやるという約束で団水に次々と浮世草子を書かせる。
西鶴には含という娘がいて、利発で妻がわりをしているが、この娘が、団水と一緒になりたいと言い出し、西鶴はダメだと言うが、含は入水自殺してしまい、西鶴はそのショックから寝込んで、ついに死んでしまう。
団水の姉も自害みたいな感じで死に、団水は西鶴の遺稿として『西鶴置土産』『万の文反故』などを刊行し、自作も出して死ぬ。という筋立てである。
割と面白かった。もっとも私は西鶴の作、特に好色ものは評価していない。